―紙おむつ廃棄物の資源循環をめざして―
紙おむつ廃棄物の現状
高吸水性ポリマー(SAP:Super Absorbent Polymer)は、紙おむつや生理用品、尿漏れパッドなどのサニタリー製品に欠かせない素材であり、その多くはポリアクリル酸塩を化学的に架橋した構造をもっています。農業用の保水材としても利用されていますが、最も大量に使われているのは紙おむつ分野です。
使用済み紙おむつは尿などの液状排泄物を多量に含むため、焼却以外の処理が難しく、廃棄物として社会的な問題になっています。特に高齢者施設などから大量に発生する大人用紙おむつは、再利用の試みが一部で進められているものの、洗浄・分別コストや設備面の制約が大きく、普及には至っていません。また、SAPやプラスチックを燃料化(RPF化)する方法もありますが、真の資源循環にはつながっていません。
日本国内における使用済み紙おむつの排出量は、直近の調査によると約245~261万トン(2022年度実績)と推計されています*1。一般廃棄物全体に占める割合は約6.6〜7.1%と報告されており、特に高齢化の進展に伴って今後も増加が予測されています。生産量(製造枚数)は約200億枚であり、紙おむつの再利用・再資源化技術の確立はより一層急務といえます。
紙おむつの主要構成は、吸水部のパルプとSAP(パンツ型紙おむつの例:パルプ約50%、SAP約20%、プラスチック約30%)です。パルプは生分解可能ですが、現行のSAPは生分解しません。そのため、安価かつ高性能な生分解性SAPの開発が強く求められています。これまでにもデンプンやセルロースなどを基材とした生分解性SAPが提案されてきましたが、吸水性能やコスト、製造プロセスの課題から実用化には至っていません。


生分解性高吸水性ポリマーの開発
デンプンは自然界に豊富に存在する安価なバイオマス資源で(100円/kg以下)、高い親水性と良好な生分解性を併せ持つ材料です。食品向けの増粘剤・ゲル化剤として広く利用されているほか、接着剤など多様な用途に展開されてきました。宇山研究室では、柑橘類などに含まれる天然有機酸を利用してデンプンを化学変性し、環境に優しい生分解性SAPを開発しました。
この天然物質は発酵法で大量生産され、食品添加物として一般に利用されているため、入手が容易で低コストです。開発した変性デンプンは高い吸水性能を示し、人工尿を短時間で吸収します。1分以内に吸収が完了し、膨潤倍率は約20倍に達しました。
さらに、化学変性の工程では有機溶媒を一切使用せず、水のみを反応媒体とするプロセスを採用しました。デンプンと天然物質を微量の水で混合し、加熱によって水を蒸発させながら固相反応を行うことで、環境負荷を最小限に抑えています。反応中に粒子を1〜2 mm程度に加工して多孔質化することで、吸水速度と膨潤性を両立しました。

コンポスト処理が可能な紙おむつ製品の実用化に向けて
紙おむつの構造材料には、表面の不織布(主にPP)、防水フィルム(PE)など、複数のプラスチックが使われています。現状ではいずれも非生分解性であり、焼却以外の処理が避けられません。しかし、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネートなどの生分解性プラスチックの加工技術は近年急速に進歩しており、紙おむつの全構成要素を生分解性素材で置き換えることが、現実的な研究目標となりつつあります。
開発された生分解性SAPは大学発の基礎技術ですが、実用化できれば紙おむつの完全生分解化に大きく近づきます。その結果、紙おむつ廃棄物をコンポスト処理できるようになり、焼却依存型の廃棄構造からの脱却が期待されます。
特に高齢者施設では、使用済み紙おむつをそのまま施設内の乾式コンポスト設備で処理し、得られた堆肥を地域の農家が活用することで、地域内で完結する資源循環モデルの実現が期待されます。廃棄物を“ごみ”ではなく“資源”として活かす社会へと進むなかで、サステナブル・ジャパン・コンソーシアムが掲げる「地域の力で、地域に最適な循環モデルを構築する」という理念とも重なります。
乾式コンポストは水分を効率的に除去でき、施設内での処理にも適しており、紙おむつ由来の素材を“資源”へと変換する現実的な手法として注目されています。開発中の生分解性SAPは、こうした乾式コンポストを用いた資源循環体系の中で、重要な第一歩を担う素材となるでしょう。
*1 出典:環境省 使用済紙おむつ再生利用等に関する調査報告書
https://www.env.go.jp/content/000312296.pdf?utm_source=chatgpt.com
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宇山 浩 / 大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 工学博士